歌舞伎はやっぱり予習の上で見たいものだ( ̄ー ̄)
チャップリン生誕130年記念として上演される『蝙蝠の安さん』は、チャップリンの名作「街の灯」を下敷きとした作品だ。昭和6年の初演から88年ぶりに、チャップリンの大ファンだという10代目幸四郎が復活させる。
蝙蝠の安さん
主な登場人物
■蝙蝠の安さん
・その日暮らしの生活を送っている。
■花売り娘お花
・街角で花を売る盲目の少女。
■上総屋新兵衛
・裕福な商人。
あらすじ
主人公は、歌舞伎「与話情浮名横櫛」で切られ与三郎の相棒としておなじみ「こうもり安」。
場所は両国。
ありがたい大仏の除幕式。
幕を外すと、そこには眠りこける安さんの姿。
(いつだって、自由気ままのこうもり安)
・・・・・。
やがて、安さんは街角で花を売る「お花」と出会い、一目惚れ。大病を患ったお花は、視力を失っていた。
何とか力になりたいと、以来なけなしの身銭を切って、彼女の花を買い続ける安さん。
またある夜、安さんは、妻と死に別れ自殺しようとしている富豪新兵衛と出会い、成り行きで新兵衛を助け、友達になる。
その夜は、新兵衛の屋敷で飲めや歌えの大騒ぎ。
ところが・・・あれ程意気投合した筈の新兵衛は、朝になると安さんの事を全く覚えていない。
「こいつは誰だ!」
屋敷から追い出されてしまう安さん・・・?
お花のことが気になる安さんは、その後も何かと優しく紳士的に接する。お花の方も安さんをお金持ちの紳士だと思い込む。
お花の家は貧しくて、長屋の家賃ももう随分と払えていない。手術を受ければ目は見えるようになるというが、それには五両もの大金が必要だ。
それを知った安さんは奔走し、お花のために何とかお金を作ろうと頑張る。頑張るが・・・そんなに上手く事は運ばない。
賭け相撲で稼ごうとするも、相手は本当の猛者だ。ちょっと狡賢い手も使ったりして、粘る安さん。
しかし、がんばり空しく・・・負けてしまう。
途方に暮れる安さんの前に、泥酔状態の上総屋新兵衛が再び現れる。酔って、橋の下のねぐらを訪ねたらしい。
「おぉ、こうもり安よ!わが兄弟!」
新兵衛の家へ行き、思い切って娘の事情を話す安さん。
新兵衛は、気前よく五両を援助してくれるという。
(必死の安に作れぬ五両。新兵衛には只の小遣い銭だ。)
「貸すなんて・・・。五両、お前さんにやるよ。」
紙入れを見るとちょうど五両。
「紙入れごと持っていけぇ!」
お花を助けてやれると、気持ちも楽になり今日も大いに飲む安さん・・・と新兵衛。
すっかり酔って、ぐっすり寝入る二人。
・・・・・。
そこに、強盗が忍び込んできた。
強盗に足を踏んづけられた安さんが、まず起きる。
安さんは慌てて叫ぶ。
「盗っ人だぁ~っ!」
家の者が集まり・・・やがて警察官も到着する。
強盗の逃げた後の部屋で、酔いの覚めた新兵衛。
困ったことに・・・、しらふの新兵衛は、酔っていたときの記憶の一切を完全に失っている。だから、酔って知り合い、酔っている時の友達である安さんのことを、何一つ覚えていないのだ。
部屋には強盗に入られた金持ちと、大金を持つ安さん。
新兵衛に安さんの記憶はないから、無実は立証されぬ。
警官に疑われ逃げ出してしまう安さん。
「この五両を渡すまでは、捕まる訳にゃいかねぇ。」
お花を探しつつ・・・逃げる安さん。
(彼女にこの五両を・・・これがまた泣かせる)
遂に、お花と出会うことができ、五両を手渡す安さん。
その五両を手に帰路につくお花を見送りながら・・・遂に安さんは、強盗の罪で捕まってしまう。
「御用だ!」という警官に「しぃ~っ!」と安さん。
お花に余計な心配を掛けたくないのだろう・・・涙。
・・・・・。
時は流れ、場面は目の治った「お花」が営む花屋。
刑務所を出た安さんがやってくる。
少し離れた所から、幸せそうなお花を見守る安さん。
優しい目。
少しハニカミ・・・ちょっぴり寂しそうに・・・。
お花は今でも、あの時の恩人(安さん)が、いつか自分の前に現れることを夢見ている。
しかしお花は、自分の恩人は金持ちの紳士だと思い込んでいるから、まさかこの男だとは思いも寄らない。
安さんが自分を見ているのを不思議がり、そして「お茶でも飲んでお行きなさい」と。
勇気を出して・・・声をかける安さん。
・・・・・。
目は・・・治ったんですね。
一瞬戸惑う「お花」。
「あぁ、あなたもあの長屋に住んでいたのね。」
「それにしても、随分ひどい恰好ね。」
哀れみから、小銭を安さんに差し出す。
「餞別をしてあげるわ。持っていきなさい。」
そんなのは、いりません。
代わりに・・・菊の花を頂けますか?
「そんなのもちろんいいわよ。」
その時、安さんとお花の手が触れた刹那、お花は恩人の紳士がこの男だと気が付く。
あなた・・・?
(戸惑いを隠せないお花)
菊の花を手に・・・立ち去る安さん。
少し行き・・・お花の方を一度、振り返る。
未だ戸惑いの消えぬ「お花」にゆっくりと頭を下げて。
「どうしたの?」
奥から出てきた彼女の母親に、軽く会釈して・・・。
・・・ただ、それだけだ。
二人に背を向け、立ち去る安さん。
安さんは、もう・・・振り返らない。
安さんの顔をクシャクシャに歪ませるのは、決して切なさだけでなく、素直にお花の幸せを喜ぶ彼の純粋さだ。
だから・・・彼は、もう振り返らない。(了)
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