古事記「ヤマトタケル」

歌舞伎の勉強

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スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を見て、思った。
久しぶりに、古事記を読み返してみよう。

スーパー歌舞伎。
ストーリーは、概ねワタシの知っているヤマトタケルの伝説と一緒だったが、猿之助演じるヤマトタケルの印象は、強いけれど繊細で、ワタシのイメージする粗野で荒くれ者のヤマトタケルとは、ちょっと違った。悪い意味ではない。

絵になる美しさ。

そんなイメージを持って読み直す古事記は、さぞや楽しかろうと。

ヤマトタケルの伝説
◆兄を殺す乱暴者
オウスノミコト(後のヤマトタケル)を呼んで、天皇(父)は申し付けた。
このところ食事の席に顔を出さない兄のオオウスノミコトに、きちんと出席するよう話してくれ。

はい、わかりました。

しかし、それから五日経ってもオオウスノミコトは食事の席に現れない。
オウスよ。どうなっているのか。

ああ、それなら兄上が言うことを聞かぬものだから、手足をへし折って筵(むしろ)に包んで捨てておきました。

なんということだ。我が子ながら悍ましい。
天皇はオウスノミコトの粗暴さを恐れ、この乱暴者に試練を与える。
我らに逆らう九州のクマソタケル兄弟を、お前が滅ぼして来なさい。

◆クマソを制圧する
天皇の命令でクマソ征伐へ向かうオウスノミコトは、まだあどけなさが残る色白の美少年
髪を額のあたりで結び、伊勢神宮に仕えていた叔母のヤマトヒメの着物を借り、刀を懐に隠して新築したてのクマソタケルの家を訪れる。

新築祝いの宴会の席。
オウスは結んでいた髪を垂らし、叔母の着物で女装した。
宴会に招待された女性に紛れ、クマソタケルの家に侵入する。
酒で上機嫌のクマソ兄弟。
おお、そこの美しい娘よ。こっちへ来て酒のお伴をせよ。

飲めや歌への大騒ぎは続き、宴会も最高潮に達したとき、娘に化けたオウスは懐から短刀を抜き、兄のクマソタケルの胸を一突き。刀は貫通して背中まで突き出す。

一瞬の出来事だった。

慌てふためき一斉に逃げる家来や女たち。
すかさずオウスは、弟も仕留めにいく。その死の間際。

西国には、我ら以上の強者はおらぬ。しかしヤマトの国には我ら以上に強い者のいることが今わかった。我の名をくれてやろう。今日からヤマトタケルと名乗るがよいだろう。

言い終わったクマソを、ヤマトタケルは瞬く間に切り刻む。
更には大和の国への帰路、西国の神々を全て従わせたのだった。

◆イズモタケルを騙し討ち
ヤマトタケルは大和へ帰る途中、出雲の国に立ち寄る。
そこにいるイズモタケルという反逆者を退治するためだ。
巧妙に、笑顔で近づくヤマトタケル。二人は友だちになった。

ある日、連れ立って水浴びに。

そこでヤマトタケルは、ひそかに樫の木でにせの刀を作り、それを腰に差しておく。

服を脱いでしばしの水浴び。

やがて、ヤマトタケルは先に川から上がり、イズモタケルの刀を腰につけて言う。
あなたの刀は実に見事だ。少しの間刀を交換してもらえまいか。

その後から、イズモタケルも川から上がって来て、ヤマトタケルのニセの刀を腰に差す。
そこで、ヤマトタケル。
ぜひ一度、この見事な刀でお手合わせを願いたい。

二人は互いに刀を抜こうとするが、イズモタケルが持っているのはニセの刀。
「むむ、これは・・・。」
この直後、ヤマトタケルはイズモタケルを切り殺す。

やつめさす イズモタケルが はける太刀 つづらさわ巻き さみなしにあわれ

つわものイズモタケルだが、差した刀はつづらで巻かれて立派に見えるが、中身がない。
なんとも、かわいそうなことだ。(ヤマトタケルの詠んだ歌)

このように、逆らう者を次々と征伐し、ヤマトの国に帰り天皇に報告する。

◆ヤマトタケルの東征
褒めて欲しいタケルだが、天皇はこう言う。
東方の国々には、未だ大和に従わぬ者がたくさんおる。それらをみな征伐して来い。

兵は無く、お伴のキビノタケヒコと二人で行けと言う。

天皇の命令を受け、大和の国を発つヤマトタケルだが、まず伊勢神宮を訪れた。そして、神殿に仕える叔母ヤマトヒメに、訴える。
父はわたしが死ぬことを望んでいるのでしょうか。きっとそうにちがいありません。

悲しみにくれるヤマトタケルに、ヤマトヒメは天皇家の宝である叢雲の剣(スサノオが八岐大蛇退治をした際に尾から出てきた刀)と一つの小さな袋を授ける。
もし、あなたの身に危ないことがあれば、この袋の口を開けなさい。

何とか気持ちを奮い立たせて、ヤマトタケルは尾張の国へ入る。
ヤマトタケルはそこで、ミヤズヒメという美しい女性と恋に落ちる。ミヤズヒメと結婚の約束をし、出発するヤマトタケル。

そして、山や川の乱暴な神、大和の国に逆らう者どもをことごとく従えて行く。

◆草薙の剣
やがて、ヤマトタケルは相模の国に入る。
この野には大きな沼があって、そこに住んでいる神はとても乱暴な神です。という相模の国造。

その神を見てやろうと、ヤマトタケルがその野に入ると、待ち伏せしていた国造たちが一斉に野に火を放つ。
謀られた!

火はたちまちヤマトタケルを包み込む。
畜生!だまされたか!
叔母の言葉を思い出すタケル。
もらった袋の口を開けると、そこから出てきたのは「火打石」。

ヤマトタケルは、叢雲の剣で草を薙ぎ払い、その草に火打石で火をつけた。
すると・・・。

燃え上がった火が向かい火となり、周りの火は鎮まり始める。

脱出したヤマトタケルは、隠れていた国造どもをすべて切り殺し、死体を焼き払った。

このエピソードから、今ではその刀を草薙の剣と呼び、この場所を焼津というようになった。

◆海神とオトタチバナヒメ
タケルはさらに東を目指して進む。

・・・・・。

走水海を渡ろうとしたとき、その海の神の力により船は一向に前へ進めない。
その時、タケルの妻の一人オトタチバナヒメが立ち上がる。

この乱暴な海の神を鎮めるため、わたしが海に入ります。あなたは任務を立派に果たして、天皇にご報告ください。

そうしてオトタチバナヒメは、海の波の上に沢山のござを敷いて、そこに降りると。

さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも
(これも、相模の野で燃える火の中、わたしの名を呼んでくださった愛するあなたのためですもの)

そして、オトタチバナヒメは海に身を投げた。
荒波はおさまり、無事海を渡ることができた船だった。

それから七日後、海岸にオトタチバナヒメが身につけていた櫛が流れ着き、タケルの目からは愛する妻を失った悲しみの涙があふれ出る。

オトタチバナヒメの墓を作り、その中に櫛を納めたのだった。

ヤマトタケルは、さらに東の乱暴者エミシたちを片端から倒し、山や川の悪い神々もすべて従えた。そして、西へ引き返す途中の足柄の坂の麓で食事をしていると、その坂の神が白鹿に変身して近づいてくる。ヤマトタケルは、鹿が近づくのを待ち、食べ残したネギを投げつけると、それが目にあたり、鹿は死んでしまった。

タケルは坂の上に登り、今来た東の方角を見て、三たび亡くなったオトタチバナヒメのことを思い出す。何度も嘆きながら、こう言った。
あぁ、我が妻よ。
そうして、この東の国々は「あづま(吾妻)」と呼ばれるようになった。

ヤマトタケルは、相模の国を出て甲斐の国へ。
酒折の神社で次のような歌を詠む。

新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる
(常陸の国の筑波を過ぎてから、これまで幾晩寝たのだろうか)

すると、境内でかがり火をたいていた老人が、こう続ける。

かがなべて 夜には九夜 日には十日を
(夜は九夜、昼は十日の日数をお重ねになっております)

ヤマトタケルは、その老人を誉めて、吾妻の国造に任命した。

◆ミヤズヒメとの恋
ヤマトタケルは、甲斐の国を出て信濃へ行き、そこの神たちを服従させる。さらに、尾張に戻って以前結婚の約束をしたミヤズヒメの所へ。ミヤズヒメは再会できたことに感激し、最高のごちそうでヤマトタケルをもてなす。

ミヤズヒメのもてなしで、これまでの疲れも癒えるタケル。
そのとき、ミヤズヒメの着物の裾に血が付いているのに気がつき・・・。

ひさかたの 天の香具山 とかまに さ渡る鵠 ひほぼそ たわや腕を まかむとは あれはすれど さ寝むとは あれは思へど ながけせる おすひの裾に 月たちにけり
(天の香具山へ飛んで行く白鳥のようなあなたの腕をとり、あなたと寝たいが、あなたの着物の裾には月が出ているなぁ。)

そこで、ミヤズヒメ。

高光る 日の御子 やすみしし わが大君 あらたまの 年がきふれば あらたまの 月はきへゆく うべな うべな 君待ちがたに わがけせる おすひの裾に 月たたなむよ
(輝く太陽の皇子。わたしの大君。新しい年が来て新しい月がまた去って行く。ええ、そうですとも、こんなにも待ちこがれていたから、わたしの着物の裾に月が出ているのも仕方のないことなのです。)

◆伊吹山の白イノシシ
こんな山の神ぐらい、素手で殺してみせよう。
ヤマトタケルは、ミヤズヒメの家に草薙の剣を置いたまま、伊吹山の神を退治に出発する。

山へ踏み入り、山の辺で牛のように大きな白いイノシシと出会った。
この白いイノシシに化けたのは、山の神の使いだろう。まあ、帰る時にでも殺してやろう。
と言い、さらに山を登って行く。

すると、突然大雨が降って、ヤマトタケルの行く手をはばむ。
実はこのイノシシは、神の使いではなくて、神そのものだった。
タケルが大声で威嚇したため、すこぶる気を悪くしていた。

目に見えて弱っていくヤマトタケル。
そこで仕方なく山を降り、玉倉部の清水で暫し休む。少し正気を取り戻し、タケルはそこを出発して、当芸野までやってきた。

わたしの心はいつも空を飛ぶように軽やかであったのに、今は足も思うように動かない。

ヤマトタケルはとても疲れたと言い、歩くのも杖をついて何とか・・・という状態・・・。

◆ヤマトタケルの最期
ヤマトタケルの命が尽きようとしているのは、明らかだった。

大和は 国のまほろば たたなづく青垣 山隠れる ヤマトしうるはし
(大和は日本の中でもっともすばらしいところだ。長く続く垣根のような青い山々に囲まれた大和は本当に美しい。)

命の またけむ人は たたみこも 平群の山の 熊白檮が葉を 髻華に挿せ その子
(命の無事な者は、幾重にも連なる平群山の大きな樫の木の葉を、かんざしとして挿すがよい。)

死の間際。

嬢子の 床のべに わが置きし 剣の太刀 その太刀はや
(ミヤズヒメの寝床に置いてきた、草薙の剣。ああ、あの太刀はどうしただろう。)

ヤマトタケルの最期だった。
人々はヤマトタケルの死を天皇に知らせる早馬を・・・。

ヤマトタケルの死の報せを受けて、大和にいるタケルのお妃や子どもたちは、能煩野にやって来て、墓をつくった。お妃や子どもたちは、そのお墓のそばの田を這い回り、嘆き悲しむ。

なづき田の 稲がらに 稲がらに 蔓ひもとろふ ところつづら
(お墓のそばの稲の上で、ところつづらのように這い回って、悲しんでいます。)

すると、その時・・・。
ヤマトタケルのお墓から一羽の大きな白鳥が、天高く舞上がって、浜の方へ飛んで行く。

妃や子どもたちは、その白鳥の後を追う。

竹の切り株の上を、海の中を・・・。
足の痛さも忘れ、泣きながら、ひたすら白鳥を追って行く。

やがて、白鳥は河内の国の志幾にとどまった。
そこで、この地にも墓を造り、ヤマトタケルの霊を鎮めることとした。

これが「白鳥の御陵」である。

しかし、ヤマトタケルの命の化身である大白鳥は、その地からさらに天高く翔け上がり、どこか遠い地へと飛んで行ったのだった。

・・・・・自由に。(おわり)

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